No.05 _ お節介ですが、デイサービスに行きましょう

 

 

 

 

 

 

「先生、母がデイサービスへ行ってくれません」

 

 

Aさん(50代女性)の母親は80歳。

 

 

当院に通う認知症の患者さんで、週に3回、デイサービスを利用しています。

 

 

はじめの数ヶ月はイヤイヤながらも家族の説得に応じてデイサービスに行っていましたが、

 

 

最近はデイサービスへ行く日の朝になると、

 

 

めまいがする、腰が痛い、気持ちが悪い、咳が出る…などなど、

 

 

あらゆる言い訳を並べて、デイサービスへ行くことを拒否するようになりました。

 

 

デイサービスを休んだ日は、そのまま布団の中にもぐり込むか、

 

 

布団から出たとしても、ソファに座ってぼんやりとテレビを眺め、気づくとうつらうつら寝ています。

 

 

朝のもろもろの訴えはどこへやら。

 

 

家族としても「何だかなぁ…」という気持ちになってしまいます。

 

 

また、デイサービスに行かないことが夜の眠りに悪い影響を与え、

 

 

夜中に何度もトイレに起きることになります。

 

 

デイサービスへ行き始めた頃は、明らかに夜起きる回数が減って、皆で喜んでいたのに…。

 

 

となれば、家族としては何としてもデイサービスに行ってもらわねばなりません。

 

 

「なぜ言い訳をしてまでデイサービスへ行くことを嫌がるのか?」

 

 

Aさんはデイサービスでの母親の様子をケアマネジャーや施設のスタッフに聞いてみました。

 

 

すると、意外な答えが返ってきました。

 

 

「お隣に座った方と笑顔でお話しされていましたよ」

 

 

「積極的に体操に取り組んでいらっしゃいましたよ」

 

 

母親は満更でもない様子でデイサービスを楽しんでいたのです。

 

 

Aさんは余計に分からなくなりました。

 

 

 

 

 

■「面倒だから」

 

デイサービスを嫌がる理由。それはこの一言に要約できます。

 

 

「面倒だから」です。

 

 

高齢者というのは、みなさんが思っている以上に腰を上げるのが大変です。

 

 

体力の低下によって、少し動くだけでも頑張りを必要としますし、

 

 

動きが緩慢になって何事にも時間がかかってしまいます。

 

 

膝や腰の痛みを抱えている人も大勢いらっしゃいます。

 

 

また、記憶力の衰えた患者さんにとっては、

 

 

デイサービスでの出来事(自分がまあまあ楽しく過ごしていたこと)を思い出すことが難しいため、

 

 

毎回のように、デイサービスへ行くこと=未知の体験 になってしまいます。

 

 

誰だって新しい物事に対して行動を起こすことは不安であり、慎重になります。

 

 

さらに、しばらく人との交流から離れていれば、その輪の中に入っていくことが怖くなります。

 

 

これだけ行くことへの障壁があれば、面倒な気分になることもうなずけるでしょう。

 

 

 

 

 

■ 心理的な負担を軽くする

 

従って、認知症の方々にデイサービスへ参加してもらうためには、

 

 

患者さんの大変さを分かった上で、

 

 

「患者さんにとってのハードルをできるだけ下げる配慮」が必要となります。

 

 

そのためにすべきこと。

 

 

それは「徹底的に本人の話に耳を傾けること」です。

 

 

自分の気持ちを汲んでもらえた患者さんは心理的な負担が少し和らぎます。

 

 

そして、ここが肝心です。

 

 

デイサービスのお迎えの人が来たら、何事もなかったように、

 

 

できるだけ明るく「あっ、お迎えの人が来たよ♪」と声をかけてみてください。

 

 

お迎えのスタッフの顔を見た途端、患者さんの表情がガラッと変わり、

 

 

笑顔でデイサービスに出かけていくってことがあるのです。

 

 

ぜひ一度試してみてください。試してみる価値は十二分にあります。

 

 

 

実は、患者さんにも「家でゴロゴロしていることは良くない」という思い(危機感)はしっかりあります。

※実際、診察の場面で患者さんはそのように語ります

 

 

ただ、だからと言って

 

 

「それに乗じて圧力をかければいいのではないか」と考えるのはNGです。

 

 

それは全くの逆効果です。

 

 

口が裂けても「デイサービスへ行け!」などと言ってはいけません。

 

 

患者さんの気持ちを硬化させてしまったら、それでお終いです。

 

 

とにかく徹底的に本人の話に耳を傾けて共感する。

 

 

そして、家族側の正論を口にしないことです。

 

 

もちろん、熱がある、食事が食べられない、など、

 

 

いつもと明らかに違う場合は、すぐに医療機関にご相談ください。

 

 

 

 

 

■ 家族の言うことは素直に聞けない

 

ここまで、デイサービスへ行き渋る患者さんを送り出すための対応について考えてきましたが、

 

 

そもそも「デイサービス利用の入り口にすら立てていないケース」もあります。

 

 

Bさん(60代女性)は、家でゴロゴロしている父親(85歳)にデイサービスへ行ってもらいたいと思っています。

 

 

しかし、デイサービスの話を少しでもしようものなら、途端に父親の顔つきが険しくなります。

 

 

はじめはそれ以上話をすることを躊躇していたBさんも埒があかないことに業を煮やし、

 

 

少し強気で説得を図ろうとしたら…

 

 

「おまえは俺を年寄り扱いするのか!」と父親は血相を変えてBさんを怒鳴りつけました。

 

 

「お父さんのことを思って言ってるんじゃないの!」Bさんも負けずに言い返し、

 

 

激しい言い争いになってしまいました。

 

 

お互いに感情的になってしまえばそれ以上の話し合いは無理です。

 

 

これでデイサービスの話はお終いになってしまいました。

 

 

伝え方にもよりますが、

 

 

認知症患者さんの多くは、「デイサービスへ行け」と言われることを屈辱だと感じます。

 

 

中には「施設に入れられるのではないか?」と猜疑心を募らせる方もいます。

 

 

そして何より、患者さんは「家族からは言われたくない」のです。

 

 

「家族の言うことは素直に聞けない」

 

 

これは多くの患者さんに当てはまる、押さえておくべき重要なポイントです。

 

 

「とにかくデイサービス行ってもらうこと」。これが最優先事項です。

 

 

理屈ではなく感情。

 

 

本人の感情を丁寧に扱いながらハードルを乗り越えて行きましょう。

 

 

 

 

 

■ケアマネージャーか地域包括支援センターにお願いする

 

家族には素直に従えない患者さんであっても、

 

 

第三者からの話には耳を傾けることができる場合が多いのも事実です。

 

 

デイサービスの利用を開始するにあたっては、第三者として、ケアマネジャーや地域包括支援センターのスタッフを頼りにすることです。

 

 

家族は、そうした第三者と事前にしっかりと戦略を練り、家族からではなく、第三者から患者さん本人に働きかけてもらいます。

 

 

そして、めでたくデイサービスへ行くことが決まったら、

 

 

それは患者さん本人が決めたこととして、「良かったね。素晴らしい決断だね」と、心から祝福してあげましょう。

 

 

 

 

 

■ 患者さんは家族に愚痴る

 

何とかデイサービスの利用にこぎ着けたとしても、別のパターンの問題が生じることがあります。

 

 

Cさん(70代女性)の旦那さん(75歳)は、

 

 

デイサービスから帰って来るなり、不機嫌な態度になります。

 

 

「あんなところ、ただ座ってるだけ」

 

 

「デイサービスに行く意味はない」

 

 

夫の言葉にCさんは、無理矢理デイサービスに行かせているような気になり、

 

 

罪悪感で心が痛みます。

 

 

「そこまで言うんなら無理して行かせなくてもいいのかしら…」

 

 

気持ちは分かります。

 

 

でも、ここでひるんではいけません。

 

 

診察時、Cさんの旦那さんは、第三者である私にとても朗らかにお話しをしてくれます。

 

 

このような方は大抵、デイサービスでも周囲の人たちと楽しく過ごしているものです。

 

 

Cさんがケアマネジャーに確認したところ、案の定、デイサービスでは特に問題なく、

 

 

他の利用者さんとも和気あいあいと過ごしているとのことでした。

 

 

今ではCさんは迷いなく旦那さんをデイサービスへ送り出しています。

 

 

「夫は外面だけは良いんです」と、Cさんは苦笑します。

 

 

 

 

 

■ デイサービスは楽しいだけのところではない

 

もちろん、実際にデイサービスで過ごす時間というのは

 

 

楽しいことばかりではないでしょう。

 

 

本人も多少なりともよそ行きの顔を使って周囲に合わせていますので、疲れがたまっていきます。

 

 

疲れれば誰だって不機嫌になりますし、

 

 

その疲れた気分が愚痴を言わせているのです。

 

 

また、妻に対する甘えがあることも確かです。

 

 

妻以外の人に対しては紳士的に振る舞うのに、

 

 

妻に対してだけは横暴な振る舞いになる方が少なからずいます。

 

 

そういった場合も、基本的な対応の仕方は同じです。

 

 

話を聞いてあげることです。

 

 

徹底的に愚痴を聞いて共感し、労をねぎらってあげましょう。

 

 

 

 

 

■ デイサービスはやはり有益なんです

 

「そこまでして、デイサービスに行ってもらうよう働きかけなきゃいけないの?」

 

 

そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、

 

 

私の答えは「その通り!」です。

 

 

そのくらい、デイサービスの利用というのは患者さんにとって有益だからです。

 

 

冒頭に登場したAさんの母親は、

 

 

デイサービスへ行くようになってから、発語が増えたり、庭いじりを楽しむようになりました。

 

 

またCさんの夫は、意欲活動性が向上し、

 

 

散歩に出かける頻度が増えました(相変わらず家では愚痴ることもあるようですが)

 

 

私がこれまで関わってきた患者さんで、デイサービスにコンスタントに通うことができている方は、

 

 

みなさんおしなべて元気です。

 

 

元気だからこそデイサービスへ通えるという面ももちろんありますが、

 

 

デイサービスで受ける刺激が心身の機能維持に貢献していることは確かです。

 

 

そして、患者さんの心身が安定することで、家族にも余裕ができ、お互いの関係性も向上しています。

 

 

「デイサービスが頼みです」

 

 

患者さんをデイサービスに送り出している家族の方々は異口同音にそう語ります。

 

 

 

 

 

■ 自由を求めて孤立

 

「もういいじゃないか、自由にさせておくれ」

 

 

そんな声も聞こえてきそうです。

 

 

確かに、自由って大切です。でも、自由って実は怖いんです。

 

 

社会のしがらみから離れて自由になりたい。

 

 

多くの人が日頃からそのように考えていますが、

 

 

今の世の中って、想像以上に自由(リベラル)です。

 

 

社会的な逸脱行為さえなければ、

 

 

自由に振る舞いたい個人をあっさりと放っておいてくれるのが、今の世の中です。

 

 

コミュニティから離れていけば、簡単に一人になることができます。

 

 

そして、気づくといつの間にか社会から孤立しているのです。

 

 

さらに一旦孤立してしまうと、もう一度コミュニティに戻ることは容易ではありません。

 

 

自由を求めた結果が孤立となる。

 

 

それでは余りにも寂しいですよね。

 

 

自発的なコミュニティへの参加が困難な認知症の患者さんであれば、なおさらです。

 

 

どうしてもデイサービスに行くことが難しい患者さんは一定数存在します。

 

 

でも、デイサービスに行くことで、その恩恵を受けられる可能性がありながら、

 

 

お膳立てにしくじって断念しているのであれば、残念でなりません。

 

 

お節介でもデイサービスへ行くように働きかけること。

 

 

私はそれが正しいと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たまゆらメモリークリニック 小粥正博

 

 

 

 

 

認知症専門/診療内科・老年精神科・精神科 たまゆらメモリークリニック

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