前回のブログ記事では、レビー小体型認知症について説明いたしました。
なぜ、みなさんにレビー小体型認知症を知っていただきたいのか?
それは、家族が対応にとても苦労することがあるからです。
認知症の患者さんは世の中に沢山いますが、すべての方が医療機関を受診するわけではありません。
当院のような認知症の専門医療機関を受診するのは、家族がやむにやまれぬ状況に陥っている場合が少なくありません。
ですから、私は正直なところ、当院を受診される患者さんについては、常にレビー小体型認知症の可能性を念頭に診察を行っています。
では、レビー小体型認知症の患者さんの対応で、家族が最も困ることとは何でしょうか?
それは、激しい感情の起伏と攻撃性です。
今回はこのことについてお話したいと思います。
■ 激しい感情の起伏と攻撃性
自分の思い通りにならないとき、間違いを指摘されたとき、非難されたとき…。
レビー小体型認知症の患者さんは、家族に対して激しく怒りを爆発させ、とりつく島もない状態となることがあります。
どこからそんな言葉が出てくるのかと思えるような罵詈雑言を家族に浴びせかけ、家族は深く気持ちをえぐられます。
激しく怒りをぶつけられた家族も黙ってはいられず、罵詈雑言の応酬に発展します。
ときに手が出てしまうこともあります(この点について、家族は多くを語りませんが…)。
そして、そんな罵り合いの後には、
怒り、苛立ち、憎悪、自責の念、悲しみ、気分の落ち込みなど、家族は大変辛い気持ちに苛まれます。
一方の患者さんは、しばらくすると先ほどの剣幕はどこへやら。
何事もなかったようにケロッとしています。
家族は強い戸惑いを感じ、さらに気持ちをえぐられます。
このようなことが繰り返されれば、患者さんと家族との関係性は決定的に悪くなっていきます。
顔を合わせれば、お互い攻撃的になり、諍いが繰り返されることになります。
「一体どうすれば…」
家族は深い絶望感に打ちのめされます。
打開策はあるのでしょうか?
■ 患者さんの特性を理解する
まず、何より理解しておくべきことは、患者さんの以下のような【特性】です。
🟠 患者さんは、容易に感情的になる(スイッチが入る)
🟠 患者さんは、いったんスイッチが入ったら激しい混乱状態に陥る
🟠 混乱状態の患者さんを説得することはできない(さらに火に油を注ぐことになる)
🟠 しばらくすると何事もなかったように平然となる(ことがある)
🟠 スイッチが入る相手は、特定の人物に対して(大抵は一緒に住む家族、中でも配偶者などの最も身近な存在)が多い
そして、
🟠 これらの特性は基本的には変えることができない
です。
このようなレビー小体型認知症の患者さんの特性を踏まえた上で、
その対応策について考えていきましょう。
■ 地雷を踏まない
大切なのは「患者さんのスイッチを入れない」ことです。
私は家族に「地雷を踏むな」と説明しています。
患者さんの怒りに火をつける言葉、態度、シチュエーションをできるだけ避ける努力が必要です。
「それって、本当の解決になるんでしょうか?」
「逃げではないですか?」
「本人としっかり向き合って、わかってもらう努力をするべきでは?」
そのように考えるのも当然かと思います。
私としても「納得がいくまでどうぞやってみてください」と言いたいところですが…、
真正面から説得を図ろうなどとすれば、事態はさらに悪くなるばかりで、
下手をするとお互いがグサグサに傷つけ合い、修復不能になってしまいます。
残念ながら「言って聞かせてわからせる」などということはできないのです。
患者さんが怒りを爆発させているときは、まさに頭に血が昇っている状態で、自分をコントロールすることができません。
理屈など全く通じる状態ではないのです。
一方、激しい感情をぶつけられた家族の側も冷静でいることが難しくなります。
怒りのぶつかり合いとなり、先ほども述べた通り、お互いの関係性を破壊します。
実は、「地雷を踏むな」ということを家族はすでに知っています。
診療時に私がこの言葉を使うと、苦笑する家族が少なからずいます。
身に覚えがあるからです。
わかっているけど止められない。
家族の苦しさはここにあります。
■ それでも怒りが爆発したら
地雷を踏んだりしなくても、唐突に感情を爆発させる患者さんもいます。
家族としては全く思い当たる節がないのに、突然、激しく罵られるのです。
そのような時は、どう対処すればいいでしょうか?
答えは「とにかく距離を置く」ことです。
できる限り患者さんのそばを離れて、患者さんの顔つきが元に戻るのを待つのです。
「顔つきを見れば分かる」
多くの家族はやはりこのことを知っています。
■ 第三者に頼る
以上の対応策をお読みになっても、
「一つ屋根の下で暮らす家族にとって距離をとることは難しい」と思われる方は大勢いらっしゃいますし、
実際、そのようなケースは数多くあります。
家族にはいろいろな制約があります。
とすれば、第三者に頼るしかありません。
幸いにもレビー小体型認知症の患者さんは、第三者に対しては、全くもって普通に振る舞うことができたりします。
「外面だけはよくて」といった嘆息は家族からよく聞きます。
当院の外来においても患者さんは私に対してニコニコと受け答えをしてくれます。
第三者から「とてもいい人」との評判を得ている患者さんもいるくらいです。
また、一緒に暮らす息子や嫁はダメでも「離れて暮らす娘なら大丈夫」といったケースもあります。
同じ家族でもその距離感の違いによって、患者さんの怒りのトリガーになりにくいということが起こるのです。
一緒に暮らす家族としては「なんだかなぁ」ですが、これは家族にとってはある意味「逃げ道がある」ことだと理解してください。
第三者に頼る選択肢の中には、デイサービスやショートステイの利用といった方法もあります。
第三者に頼ることで、衝突を減らし、少しでも気持ちを楽にしましょう。
家族に休息は不可欠です。
■ 脳が誤作動を起こしている
怒りを爆発させる患者さんは「自分で自分をコントロールできない状態になっている」と述べました。
それは、脳が誤作動を起こしているからです。
脳の誤作動によって明らかに顔つきが変わります。
本来の患者さんではないのです。
つまり、患者さんはまさに病的な状態にあるということです。
怒りのあと、ケロッと何事もなかったかのように振る舞う姿こそが、患者さん本来の姿です。
■ 薬物による攻撃性の減弱
ここまで家族の対応の仕方や第三者に頼ること(環境の調整)について述べてきました。
患者さんの怒りに対して、しっかりとした対応や第三者を頼ることはとても重要です。
が、それは簡単なことではありません。
家族には、良くも悪くもそれまで長年にわたって築き上げてきた関係性があり、
それが対応の仕方に色濃く反映されます。
地雷を踏むなと言われても、なかなか簡単には応じられません。
また、距離をとれと言われても、家屋の構造はおいそれと変えられませんし、
家族の構成員それぞれが患者さん本人とのつながりを持っています。
さらに残念なことに、デイサービスの利用についても、レビー小体型認知症の患者さんはおしなべて拒否的です。
対応の仕方や第三者に頼ることの次にくる手立てとして、薬物の調整があげられます。
まずは患者さんが服用している薬の中にせん妄など情動を不安定にする可能性のあるものを確認します。
そして、可能であれば減量・中止とします。
次は、抗認知症薬の服用についてです。
認知症に携わる多くの医療者・介護スタッフは認識していますが、
抗認知症薬というのは、イライラ、落ち着きのなさ、怒りっぽさ、攻撃性を助長することがあります。
情動の安定を求めて当院を受診する患者さんの中にも、抗認知症薬が漫然と使用されているケースがしばしばあります。
そうしたとき、抗認知症薬を減量、もしくは中止することで、速やかに攻撃性が減弱する場合があります。
抗認知症薬によって何年にもわたって患者さんの攻撃性に苦しんできたというケースもあり、いたたまれない気持ちになります。
さらに、レビー小体型認知症の患者さんは、通常の認知症の患者さんよりもより一層抗認知症薬によって攻撃性が助長されやすい傾向があります。
「薬を減量したら、認知機能障害が進むじゃないか!」
そうした懸念もあるかと思いますが、私の経験上、
薬を減量したからといって認知機能障害が進んだと感じる方はほとんどいません。
そもそも薬が過剰なのですから。
■ 抗精神病薬を上手に使う
次に考慮すべきは抗精神病薬です。
抗認知症薬を含めた薬を整理したにもかかわらず、精神症状が改善しない方に対しては、
ごく少量の抗精神病薬の使用を検討します。
高齢者は薬に対して脆弱で副作用が出やすいこと、
さらにレビー小体型認知症の患者さんは抗精神病薬に対する過敏性が強い(=副作用がでやすい)と言われていますから、
薬の使用には慎重さが求められます。
とはいえ、対応の仕方や環境を整えることには限界がありますから、
これらの薬物を上手に使うことは、認知症治療において必要なことだと私は考えています。
適正な薬物使用によって、明らかな副作用を引き起こすことなく、患者さんがある程度穏やかになり、
無理のない範囲で生活できるようになることがあるからです。
■ 薬の処方は、患者さん・家族・医師との共同作業
薬の処方は医師の専権事項とお考えになるかもしれませんが、それは正しくありません。
まずは、精神症状や行動上の問題などについて、「何が治療のターゲットになるのか」を家族と一緒に話し合います。
その上で、薬物治療がそのターゲットに対してどのような変化をもたらす可能性があるかを話し合います。
効果、そして、副作用についてです。
そして、薬についてのエビデンスや医師のこれまでの経験(他の医師とのコミュニケーションを含めた)を踏まえて、
医師が「どのような薬をどれだけ使用するか」の初期設定を判断します。
薬が開始されても引き続き患者さんや家族とのコミュニケーションは大切です。
医師は、その後の患者さんの様子を家族から聞き、そして、患者さんを診察した上で、
家族とコミュニケーションをとりながら薬物の調整をしていきます。
記憶力や理解力の衰えている患者さんご本人には薬のことを細々と説明することはありません。
例えば、次のように伝えます。
「あなたは時にイライラしていることをご家族が心配しておられます。誰だって心穏やかに暮らしたいものです。気持ちを和らげる薬を少しだけ使ってみましょうか」
初期設定でうまくいけばそれに越したことはありませんが、残念ながらそうなるとは限りません。
副作用を出すことはできるだけ避けたいのは当然です。
私が抗精神病薬を使用する際は、ごく少量から開始し、
いい感触が得られれば、漸増していくという戦略をとることにしています。
ですから、やや時間がかかってしまうことが難点です。
そこを、頓服薬(精神症状が安定しない場合に臨時で追加する薬)でカバーしながら経過をみていきます。
薬物治療は医師の一方的な行為ではありません。
ご本人と家族、そして医師双方のコミュニケーションが効果を最大化し、副作用を軽減することにつながります。
■ 家族だからこそ難しい
レビー小体型認知症の患者さんへの対応は時に大変難しいものとなります。
家族だけで立ち向かうには限界があります。
渦中にある家族は自分たちの手に負えないものを第三者に頼むことなど思いもよらないことがあります。
家族だからこそ難しいのです。
このことを決して忘れないでください。
たまゆらメモリークリニック 小粥正博
